ラグビー日本代表の大躍進が必然だった理由:データが世界への扉となる

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ラグビー日本代表の大躍進が必然だった理由:データが世界への扉となる

スポーティ

ビッグデータという言葉が聞かれて久しい昨今、産業・業界を問わず、データ活用の流れが顕著になってきています。もちろんスポーツ界においても同様で、他チームのスカウティングや、戦略・戦術構築において活用の場面が増えてきています。

今回はそんなスポーツにおけるデータ活用、そしてイノベーションを促進するためのイベント「スポーツアナリティクスジャパン2015」から、ラグビー日本代表のアナリスト 中島正太氏による「トップスポーツのアナリティクス活用事例 〜エディージャパン4年間の軌跡〜」の講演内容をご紹介します。この講演からは、歴史を塗り替えたラグビー日本代表の躍進が「必然」だった理由が明らかになりました。

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世界で最も準備されたチームを目指す:エディジャパン躍進の始まり

2012年4月1日、エディジャパンが始動。当時の目標は、当時13位だった世界ランクで10位以内に入ることでした。これは約2年後の2014年11月に達成。次なる目標を2015年のW杯でのベスト8入りにシフトチェンジしました。

しかしながら、これまでの実績を見れば分かる通り(当時日本はW杯でわずか1勝のみ)、この目標を達成するのは簡単ではありません。果たして日本は、フィジカルのハンデを乗り越えるのか? それともこれまでの日本のスタイルであるパス&ランを磨くのか? いずれも違いました。当時のチームの答えは「世界で最も準備されたチームを目指す」ことでした。

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世界で最も準備されたチームには、中島氏をはじめとするアナリストの活躍が欠かせなかった

フィジカルでは世界一になれない。スピードでもなれない。ならば準備をすることで世界一を目指そうとしたのです。そのために必要なのがデータ。そしてアナリストの存在です。かくして、アナリストたちはチームにどのような影響を与えたのでしょうか? 2016年W杯本番の大事な初戦となる南アフリカ戦で見事に発揮された、分析による効果を見てみましょう。

力を数で粉砕。「リロード」の徹底

日本が各国に比べてパワーに劣るというのは既出のとおりです。それならば数で対抗しようと、相手がボールを持っているときには、1人ではなく2人で倒しに行くことを前提にしていました。しかしこれが続くと、日本のDFラインは手薄になります。そこで倒しに行った選手が素早くDFラインに戻る=リロードを徹底しました。

ラック(ボール保持者がタックルを受け、ボールを地面に置いて押し合いになっている状態)からボールが外に出る時間は約3秒と言われています。この3秒の間にDFラインに戻れればリロード成功、戻れなければ不成功となります。この日本独自のラグビーが、フィジカルの強い南アフリカを粉砕した1つ目の要因でした。

リロードを習慣づける練習にも、アナリストは大いに活躍しました。リロードの練習時にはドローンを活用し、選手ごとにできていたかどうかのパフォーマンスを数値化しました。

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選手の動きの分析には、ドローンによる空撮が効果的だった

そしてもっともパフォーマンスが悪かった選手は、次の練習で「ピンクのビブス」をつけるという罰を与えたのです。ピンクのビブスがそれほど嫌だったのかわかりませんが、どうやら効果があったようです。

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ペナルティとして着せられたピンクのビブス

効果的だったサプライズ。キックの多用

南アフリカは優勝候補の強豪です。当然日本相手であれば自信を持って戦ってくるはずです。しかしそれがもし、過信だったとしたら? 大会前、サモアとスコットランドに勝って優勝すると話した南アフリカ。かたや南アフリカの全選手の情報を把握していた日本。南アフリカの選手の心の隙を突き、動揺させること。これも1つの目標でした。

そこで日本は格上の南アフリカに対して「サプライズ」を仕掛けることを、プランとして明確に盛り込みました。パワーで地域を獲得し、DFで相手のボールを奪い、トライするスタイルの南アフリカ。一方日本は、これまで1試合平均で160回のパス、16回のキックを数えていましたが、南アフリカ戦ではキックを多用し、パスを減らしました(125回のパスと22回のキック)。

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1試合平均のパス・キック数と、南アフリカ戦でのパス・キック数

例えば、通常はランを仕掛けるところで蹴り返していく。これにより南アフリカが地域を獲得することを防ぎ、相手にDFする機会を与えないことに成功します。加えてターンオーバーを減らすことにも成功しました。そしてキックを想定していない南アフリカはパニックを起こしたのです。

南アフリカの隙を突き続け、ついに活路が…

南アフリカの予想に反してキックを多用し、最初の10分で相手を戸惑わせ、パス&ランを捨ててテンポの速い攻撃を仕掛けていきました。ディフェンスでは低いタックルで常に2人が襲いかかり、プレッシャーをかけ続けました。

すると次第に南アフリカがフラストレーションを溜めていきます。心の隙がさらに大きくなり、そしてチャンスが生まれました。

多くの方が目撃した残りワンプレーからのトライの場面。きっかけは直前に相手選手のペナルティがあったことでしたが、実はこのエリアでレフリーがペナルティをとるであろうことは事前に分析済みでした。そしてペナルティによるスクラムの後には、逆サイドにスペースが空くことも、選手自身によって分析されていました。

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最後のスクラム前のペナルティを取った場面から、逆転トライまでの攻防

ラグビーに限らずスポーツは、さまざまな要因が複雑に絡み合い、かつ刻一刻と状況が変化します。加えて多くの情報が溢れる昨今では、あらゆる状況にも対応するための「準備」が、勝敗を左右する大きな要因となるのです。「もっとも準備されたチーム」である日本代表にとって、本大会の躍進は必然だった理由がお分りいただけたでしょうか? 

これから様々なスポーツにおいて、データの活用が増えていくと考えられます。皆さんも、何かしらのプレーや試合において、どのような分析・準備があったのかを掘ってみると、新しいスポーツ観戦の楽しみ方を見つけられるかもしれません。


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