タイ代表を侮るな。フィリピン代表・佐藤大介に聞くタイと戦って分かったこと
WATCHタイ代表を侮るな。フィリピン代表・佐藤大介に聞くタイと戦って分かったこと
28日に日本代表はタイ代表とW杯出場権をかけて激突します。去年タイ代表戦では、アウェイの地で2−0の勝利を収めた日本代表。
今回の対戦はホーム(埼玉スタジアム)で開催されますので、有利にゲームを進められるでしょう。しかし、タイ代表は侮れません。二次予選ではイラクを退けてグループ首位で最終予選に進出、最終予選でもアジアの強豪であるオーストラリアと引き分けを演じました。今回成長を続けるタイ代表の強さを明らかにしていきたいと思います。
加えて、実際にタイ代表との対戦経験があるフィリピン代表・佐藤大介選手にタイ代表の実力を聞きましました。
TOP画像:Photo by sonictk
スズキカップ(東南アジア選手権)で対戦したタイ代表(赤)とシンガポール代表
タイ王国のサッカー事情
タイ王国は東南アジアのインドシナ半島中央部及びマレー半島北部に所在する仏教国です。日本と同じく立憲君主制で、東南アジアの中でも経済規模がトップクラスです。
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タイ王国の位置
タイのサッカー事情を一言で現すと「高度成長」を遂げています。育成年代代表はアジアの強豪国(日本、韓国、オーストラリア、イランなど)を倒していますし、A代表も格上相手に引けを取っていません。リーグでは、ブリーラム・ユナイテッドとムアントン・ユナイテッドの2強が覇権を争っています。ブリーラムは2013年にACLでベスト8に入り、ムアントンは今年のACLでJ王者である鹿島アントラーズを破りました。他にも、この2強に追随する強さを持つチョンブリーFCやACL2002-2003で準優勝を果たしたBECテロ・サーサナなどがあります。東南アジアでは最強のリーグと代表を保有しているため、東南アジアサッカーを牽引する存在です。
タイで最強のクラブといわれるブリーラム・ユナイテッド
データで見る日本代表とタイ代表の相性は?
日本代表とタイ代表の戦績は、21戦15勝4分2敗(1962年〜2016年)で48得点17失点(得失点差+31)と圧倒的に日本が有利です。直近の成績は2016年9月26日に開催されたW杯アジア最終予選の2-0(開催地:バンコク)で日本が勝利しています。実は2敗の内訳ですが、FIFAのAマッチで見ると日本代表はタイ代表に1敗しかしていません。1984年4月15日に開催されたロサンゼルス五輪アジア・オセアニア予選では2-5(開催地:シンガポール)でタイ代表に敗北していますが、五輪サッカー競技の試合はA代表の戦績にカウントされません(IFFHSの基準を準拠すると)。Aマッチでタイ代表に唯一敗北した試合は1997年3月15日に行われた国際親善試合であり、1-3(開催地:バンコク)で破れた試合のみとなります。そして日本代表がタイ代表に破れたロケーションは、いずれも日本国外です。今回行われる試合は日本で開催されるため、データ上では日本代表が圧倒的に有利と考えられます。以上を踏まえて、余程のことがない限り日本代表はタイ代表に負けないと推察します。
筆者が考えるタイ代表の危険な選手
データ上では日本は圧倒的に有利な条件が揃っていますが、サッカーは何が起きるか分かりません。そこで、日本代表が気をつけなければならない選手をピックアップしていきます。選出しようと思っていたフリーキックの名手であるティーラトン・ブンマタンは、サウジアラビア戦で累積出場停止処分を受けていますので、除外します。
■チャナティップ・ソクラシン
今年の7月にコンサドーレ札幌への移籍が決まった「タイのメッシ」こと、ソクラシンは非常に危険な選手です。テクニカルなドリブルと運動量に優れた選手で、後方に下がれば正確なパスを散らしてゲームメイクに務めます。バイタルエリアに侵入されれば、鋭い切り返しで守備陣を混乱させるでしょう。最近は、推進力のあるドリブルを用いた「縦の突破」が増えています。
■ティーラシル・ダンダ
タイ代表で欧州クラブに数度在籍したことがあるストライカー。タイ人には珍しく181㎝と上背があり、屈強なフィジカルを持っています。当時スペイン1部UDアルメリアに所属していた際は、コパ・デル・レイでレアル・ベティス相手にゴールを決める活躍をしました。突破力もあるため、ゴール前では怖い存在です。
■シャリル・シャピュイ
タイ代表で唯一FIFAの国際大会(2009 FIFA U-17W杯)を制覇した経験がある選手です。彼はスイス生まれで、ほぼ全てのスイス代表・育成年代カテゴリーで出場経験があります。日本代表とも相性が良く、2009 FIFA U-17W杯では宇佐美貴史、杉本健勇、宮吉拓実を有する日本代表を4-3で破っています(シャピュイはCBでフル出場)。縦への突破、意表を突いたグラウンダーパスなどいい意味でタイ人らしくないプレーを持ち味にしています。
筆者一押しのシャリル・シャピュイ。スイス出身の攻撃的MF
他にもフランス出身の右SBトリスタン・ドやクルークリット・タウィカンのような優れた選手が多数います。個人的には、注目の新戦力と言われるドイツ出身のCBマヌエル・ビアを見たかったです(負傷により招集見送り)。
フィリピン代表・佐藤大介選手から見たタイ代表
では、実際にタイ代表と2回対戦したフィリピン代表の佐藤大介選手に、タイ代表の印象を聞いてみました。
フィリピン代表の佐藤大介選手。現在2019 AFCアジアカップ予選を戦っている
—タイ代表と対戦して、感じた印象を教えてください。
僕が個人的に思うことですが、目的がはっきりとしているチームですね。どんな対戦相手に対しても、しっかり繋いでチャレンジしていく姿勢が見受けられます。その中でも技術があって、局面でも自信を持って各々がプレーをする印象がありました。
—タイ代表と対戦して、苦戦した選手・やり辛かった選手はいましたか。
そうですね。僕が2年前にやった時、その選手はいなかったんですけど、去年のスズキカップ(東南アジア選手権)をテレビで観ていて、他の選手からもその選手の話を聞きました。その選手はFWのティーラシル・ダンダです。身体も大きいし、強くて技術もあります。最初に技術はあまりないのかな?と思って観ていたら、技術がしっかりしていました。そこで、結構ボールを収められて、自分から捌いたり、動き直したりと彼には気をつけたほうがいいと個人的に思いました。
チャナティップは中盤で凄く動きますので、チームにとってとても良い選手だと思います。チームが苦しい時にボールをキープして、局面も一人で打開できます。時折キラーパスのようなパスを出せる選手なので、この二人が危険だと思います。
—佐藤選手から観て、タイ代表戦はどういった展開になるでしょうか。
前半のうちに速い段階で点を獲れたら、間違いなく日本は余裕を持って自分達のサッカーが展開できると思います。ちょっと点を獲るのに時間がかかるとタイ代表に自信をつけさせてしまうので、少し危ないかなと思いますね。こういう試合だとタイ代表は失うものが何もないので、自信を持たせてしまうと嫌な展開になってしまいます。早いうちに点を獲れたら有利に進めると思います。
—佐藤選手が考える日本代表のキーパーソンを教えてください。
怪我していなければ、大迫選手だったと思います。個人的に思うのはサイドの選手ですね。こういう試合だとタイ代表が守りを固めてくることもあると思います。サイドで如何に突破して、崩せるかが大事になってくると思います。
—東南アジアでのタイ代表の評価と、フィリピン代表から観たタイ代表の評価も教えてください。
東南アジアではトップではないかと思います。個々の選手、リーグ、代表もしっかりした基盤があります。代表は結果も付いてきていますから、東南アジアでの評価は一番です。
(フィリピン代表から観たタイ代表)もちろん、自分達はライバル視しています。タイ代表に差を付けられないように、追い越せるようにやっています。FIFAランキングでは僕たちのほうが上ですけど、結局ランキングは数字でしかないです。彼らは負けたくない相手です。東南アジア代表として頑張って欲しいですけど、日本はW杯もかかっているので勝ってほしいですね。
近年、タイ代表は急速に力をつけています。佐藤大介選手が言うように、早い段階でゴールを決めないと難しい展開になるかもしれません。実際に、オーストラリア代表は彼らと引き分けになりました。タイ代表戦で勝利以外の結果に終われば、最終予選も難しい状況になり得ます。日本代表が勝利を収めて、W杯出場権をたぐり寄せることを願います。
INFORMATION
佐藤大介
170㎝/68kg Position 左SB、左SH、右SB
フィリピン・ダバオ州ダバオ出身、1994年9月20日生まれ。
フィリピンで生まれ、フィリピン人の母と日本人の父を持つ。日本に移住してからは、FC東85スポーツサッカー少年団を経て浦和レッズの下部組織に加入。ユースで経験を積むが、トップチーム昇格を掴めなかった。仙台大学に入学後、プロを目指してフィリピンリーグのグローバルFCに入団。2014年にネパール代表との親善試合で、フィリピン代表デビューを飾った。その後は同代表の主力SBとして、東南アジア最高峰のSBと評価されるようになる。AFCチャレンジカップ準優勝や2017 W杯アジア2次予選で北朝鮮代表を破るなど、フィリピン代表の快進撃に大きく貢献した。2016年の夏、ルーマニア1部CSMSヤシに移籍。プレースタイルは、テクニカルなドリブルと素早いオーバーラップで相手を置き去りにする。クロス精度も高く、対人守備にも長けている。