アロマテラピーのスポーツへの応用の可能性
DOアロマテラピーのスポーツへの応用の可能性
アロマテラピーと聞くと「癒し」というイメージが強いと思います。アロマテラピーとは、植物から採れる芳香成分である精油を用いる、リラクゼーションを目的とした療法のことを言います。部屋にラベンダーやローズの香りを充満させればぐっすり眠ることができそうです。しかし、アロマテラピーにはこうしたリラックス効果を得られる精油だけでなく、覚醒作用を示す精油も存在します。実は、こうした精油をスポーツに応用することができないかという考えがあり、実際に研究もされています。
今回は、アロマテラピーで用いる精油が、スポーツのパフォーマンスに及ぼす効果について紹介していきたいと思います。
覚醒作用を示すペパーミント精油
ペパーミント精油は、ハッカのような鼻をスッと通り抜けるような爽やかな香りが特徴です。ペパーミント精油には、虫除けの効果や殺菌作用のような効果が知られていますが、それ以外にも覚醒作用を示すことも知られています。具体的には、交感神経系を活性化させ、体内でエネルギーを作りやすい状態にしています。
交感神経系が、活性化されると、副腎からアドレナリンやノルアドレナリンといったホルモンが分泌されます。これらが分泌されると、筋肉では、グリコーゲンの分解が促進され、脂肪組織では、脂肪分解が促進されます。
その結果、より大きなエネルギーを得ることができます。つまり、ペパーミント精油を利用することで、アドレナリンの分泌を促し、より瞬発的に、パワーを発揮することができる可能性があります。実際に、ペパーミント精油を嗅ぐと握力や高飛び、短距離走といった瞬発力が必要な種目のパフォーマンスが向上することが報告されています。この他に、ペパーミント精油の匂いを嗅ぐと、タイピングの効率が上がるという報告もされています。この結果から、精油の香りにより認知能力が高まったと考えられます。
一見、スポーツとは関係ないような効用ですが、スポーツ中には、瞬間的に状況を把握しなくてはならない場面がたくさんあります。例えば、サッカーではパスを出す際、仲間と相手の位置関係を瞬間的に把握し、どこにパスを出すかを決めなければなりません。
このような場面で、認知能力が高まれば、より正確なパスを早く出すことができます。さらに、ペパーミント精油には、体に冷たい感覚を与えるという効果もあります。ハッカ入りのガムなどを食べた後、口の中がスッとして涼しく感じると思いますが、それはメントールという物質によるものです。
神経細胞には、冷感覚を伝えるTRPM8というタンパク質が存在しています。このタンパク質は、23度以下の冷刺激が加わると活性化され、冷たいという情報を脳に送ります。私たちが「冷たい」と感じるのは、このTRPM8が活性化されるからです。実は、メントールにはこのTRPM8を活性化させる作用があります。つまり、実際には冷刺激が加わっていないにも関わらず、TRPM8が活性化されるので、私たちは「冷たい」と感じるとこになります。
ペパーミント精油には、メントールが約40%含まれているので、ペパーミント精油を用いるだけでも十分に冷たいという感覚を得ることができます。運動をしていると体温が上昇し、パフォーマンスの低下に繋がります。そんな時にペパーミント精油を利用し、少しでも涼しいと感じることでパフォーマンスの低下を抑えられる可能性が考えられます。
脂肪分解を促進するグレープフルーツ精油
次に紹介するのは、グレープフルーツ精油です。グレープフルーツ精油は、柑橘系に独特のスッキリとした香りが特徴です。グレープフルーツ精油には、特徴的な成分として、ヌートカトンという物質が含まれています。ある実験では、マウスにヌートカトンを与え続け、脂肪蓄積や持久的運動パフォーマンスにどのような影響があるかを調べています。その結果、ヌートカトンを与えると脂肪の蓄積が抑制され、持久的運動パフォーマンスが向上しました。また、細胞をヌートカトンと共に培養した実験では、ヌートカトンにより、体内のエネルギー工場であるミトコンドリアの生合成を高めるAMPKや脂質代謝を促進するPPARγというタンパク質量が上昇したことが報告されました。
この結果から、ヌートカトンはAMPKやPPARγといったタンパク質量を上昇させることでミトコンドリアを増やし、脂質代謝を促進させ、その結果脂肪の蓄積を抑制し、持久的運動パフォーマンスを高めたと考えられます。また、グレープフルーツ精油はペパーミント精油と同じように、交感神経系を活性化させる作用を示すことも知られています。そのため瞬発的なパフォーマンスの向上も期待されます。
アロマテラピーと聞くと、やはり癒しとうイメージが強いように感じますが、精油の種類によっては今回紹介したように覚醒作用を示すものだったり脂肪分解を促進したり、持久的運動パフォーマンスを高めたりするような精油も存在します。
精油や香りに関する研究はまだまだ分からないことがたくさんありますが、科学的にアロマテラピーがスポーツに有効であると証明されれば新たな一面が開けるので期待がかかります。