メジャーを目指す日本人審判員

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メジャーを目指す日本人審判員

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メジャーリーグを目指す一人の日本人がいます。松田貴士さん(29歳)です。現在、マイナーリーグでは、AAのイースタンリーグに在籍をしています。とはいっても、プレイヤーではありません。審判として、メジャー昇格を目指し、野球漬けの毎日を送っています。

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マイナーリーグの審判も超エリート

出身は、四国の愛媛県。元々野球をやっていたものの、大学3年の時に、野球部を引退をしました。しかし、完全に球界から身を引くのではなく、審判という形で、野球に関わっていくと決意し、四国アイランドリーグの審判部に所属。審判としてのキャリアをスタートさせました。
「元々は、日本でプロ(NPB)を目指すために、四国アイランドリーグで審判を始めたのか?」との問いに松田さんは、当初からアメリカへ渡り、メジャーを目指す決意を固めていたと言います。四国アイランドリーグで、審判部長を務める神谷佳秀も、アメリカの審判学校で学んだ経歴があり、彼の希望を後押ししたようです。

四国アイランドリーグで、2年間審判を務めた松田さんはアメリカへ渡り、まず、ジム・エバンズ審判学校へ入学します。(審判学校には、もう一つ、ハリー・ウェンデルステッド審判学校があります。)ジム・エバンズ審判学校を卒業したのち、無事マイナーリーグ入りを果たします。ここで初めて、メジャーリーグへのスタートラインに立つわけですが、この段階で、超難関のエリートだけがなれるのです。審判学校では、約150人ほどの生徒のうち、卒業できるのが20人程度、2つの審判学校の卒業生のうちから、マイナーリーグに採用されるため、かなりの狭き門なのです。

そんな選ばれた存在である彼らは皆、選手と同様ルーキーリーグからスタートします。今年、渡米後7年目を迎える松田さんはAAのイースタンリーグですが、マイナーリーグのAAとAAAは3人制で試合を行い、それ以下は2人制で試合を裁きます。(メジャーは、4人制です。)

現在のAAに昇格するまで、松田さんは500試合くらい2人制で、試合を担当しました。そのため、AAに上がり、3人で試合を担当するのは非常に楽だと言います。しかも、2人制の試合だと、審判のうち、1人が負傷すれば、残る1人で試合は進行することになります。このような事態は、日本ではまず考えられませんが、マイナーリーグでは、珍しくはないようです。一人でボール、ストライクのジャッジからアウト、セーフのジャッジまで全てをこなさなければならず、盗塁まで判定しなければなりませんが、そんなものだと両軍とも文句を言う者はいないそうです。

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審判生活は超ハード

現在のイースタンリーグは、12球団あり、審判員は18人います。移動、過密スケジュールという点では、日本とはスケールの違いを感じさせられます。2人一組で、車を交代で運転しながら移動するそうですが、10時間かけて移動することもあるそうです。22時30分くらいに試合が終了、23時に球場を出て移動、翌朝8時に移動先へ到着、仮眠ののち19時からナイターがあるというのも珍しくありません。連戦も最高20連戦くらいになることもあり、更には、雨で流れる試合があると、ダブルヘッダーで試合を消化するため、かなりのハードスケジュールになります。

オフの日は、月に2日ぐらいだと松田さんは言います。精神的にも、身体的にも、タフでないと務まらないし、実際にアメリカ人の若い審判も、ホームシックで辞めていく人が多いそうですが、松田さんは食生活や環境などに適応できたそうです。周囲の人が気遣い、日本食のご馳走に誘われたこともありましたが、既にアメリカでの生活に慣れ切っていた彼に心配は無用に終わりました。

日本では、きわどいプレーがあれば、監督やコーチが出てきて審判団に対して執拗に抗議をする姿が度々見られます。アメリカではどうかと訊くと、松田さんは、「抗議する文化はあるが、文句を言いに出てくるのではなく、議論をしたり見解を訊きにくるんです。感情的ではないので、後々に引きずることがない。」と言います。プロフェッショナルな仕事、誇りを持った仕事こそが評価されますので、監督と審判も互いに尊敬する文化があるからだそうです。

1997年には、アメリカからNPBに派遣されたデュミロ審判員が、シーズン途中で辞任し帰国してしまった事例がありますが、審判が置かれている立場の違いが日米では差があるということでしょう。

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シビアな評価システム

そんな松田さんもルーキーリーグからAAまで昇格し、今後はAAA、更には、メジャーへ昇格しようとしています。審判が昇格していく過程で、どのようなことが評価されるのでしょうか。もちろんルールの知識は言うまでもありません。試合を通して、正確さやジャッジ、コールのタイミング、姿勢など50項目に渡り、評価されるそうです。

また、試合中はもちろんグランド内外での英語でのコミュニケーション能力も問われます。球団のGMとの試合日程や球場についての確認を行う必要もあります。そんな時に、審判団が確認を怠り球場に現れないなんてことになれば、それこそ致命的です。
評価は、シーズン途中と終了後の年2回行われます。その評価内容によって昇格が決まります。逆に低いと降格があるのでしょうか?松田さんに訊くと、「クビです。」と即答しました。とてもシビアな世界と言えるでしょう。

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日本人初のメジャーの審判誕生へ

マイナーリーグで、審判になりメジャーへ昇格するまで、人にもよりますが、約6年から10年程度かかるそうです。松田さんは7年目(現在のイースタンリーグは3年目)ですが、来年には、AAAに上がっていたいと言います。「AAは、マイナーリーグのスーパーバイザーに見てもらえるが、AAAに上がればメジャーのスカウトに見てもらえる。なんとしてもメジャーのスカウトの目にとまれるように準備をしたい。」と熱く夢を語ります。数年後には、日本人初のメジャーリーグ審判員が誕生しているかもしれません。

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今春もう一つ、嬉しい話題が飛び込んできました。松田さんの後輩にあたり、昨年まで四国アイランドリーグで審判員を務めた小石澤進がハリー・ウェンデルステッド審判学校を卒業し、マイナーリーグデビューが決まったのです。松田さんが7年前に渡米しキャリアをアップさせてきたことが大きかったのでしょう。大谷翔平が、華々しくメジャーデビューし話題になっていますが、メジャーを目指す日本人の審判にも注目です。

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