フォルトゥナ日本デスクに聞くゲルマン魂の秘密

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フォルトゥナ日本デスクに聞くゲルマン魂の秘密

スポーティ

瀬田元吾さんは2005年渡独し、現在は、宇佐美貴史、原口元気という2人の日本人選手を擁し、ブンデスリーグ2部で優勝したフォルトゥナ・デュッセルドルフのフロントで活躍しています。
2018FIFAワールドカップロシアグループリーグのスウェーデン戦でロスタイムに起死回生の決勝ゴールで、勝利をしたドイツの強さの秘密について、長年ドイツサッカーを見てきた瀬田さんに話を聞きました。

キッカケは2001年からの育成改革

2000年のユーロでグループリーグ敗退という惨敗を喫したドイツはDFB(ドイツサッカー連盟)を中心に育成改革に乗り出します。
その際に掲げた目標がふたつ。ひとつは「ドイツ代表を世界一のチームにすること」、もうひとつは「ドイツから優秀な若手選手を輩出すること」。ワールドカップで優勝することから逆算し、リーグを巻き込んだ改革を行ってきました。
ヨーロッパの主要リーグは95年のボスマン判決以降、優秀な選手を各国から集めることが出来るようになった反面、自国の選手がリーグで出場機会を得ることが出来ず、育たないというジレンマに陥っていました。
そこでブンデスリーグが2006年より各チームに義務付けた「ローカルプレーヤールール」で「ドイツ人枠」を設立しました。
各チームに対して、12人のドイツ国籍の選手との契約を義務付けるとともに、自クラブ出身者を4名、ドイツ国内で育成された選手を合計8人(自クラブの4人を含んでよい)をトップチームに登録しなければいけないというルールを設立します。

この施策の効果はすぐに現れます。
有望な若手が成長し、08〜09年にはU-17、U-19、U-21という3つのカテゴリーでヨーロッパを制することになります。
このときのチームに含まれるのは、マヌエル・ノイアー、ジェローム・ボアテング、マッツ・フンメルス(現在の所属:バイエルン・ミュンヘン)、サミ・ケディラ(ユベントス)、テア・シュテーゲン(バルセロナ)、マリオ・ゲッツェ(ドルトムント)と現在ドイツ代表で中核を担っているメンバーです。
欧州での優勝経験はありませんが、トーマス・ミュラー(バイエルン・ミュンヘン)、トニ・クロース(レアル・マドリー)らも同世代となります。
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彼らが世界デビューしたのが2010年の南アフリカワールドカップ。ノイアー、ボアテング、クロース、ケディラ、ミュラーという育成改革の寵児たちが活躍し、この大会でドイツは3位という好成績を収めます。

そして、育成改革が花開いたのが2014年ブラジルワールドカップ。育成改革の恩恵を受けたマリオ・ゲッツェのゴールでアルゼンチンを破ったドイツはついにDFB念願の世界一を手にすることになります。

南アフリカとブラジルワールドカップの違いについて瀬田さんはこのように分析します。

2010年の南アフリカ大会のメンバーはすべてドイツ国内でプレーをしている選手でした。しかしブラジルワールドカップでは7人の選手が国外でプレーしています。国外で得た経験を代表に還元することでチームがより強くなったと思います


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憎きバイエルン所属の選手もドイツの代表選手

ドイツ国内で人気のチームはヨーロッパの舞台でも活躍するバイエルン・ミュンヘン。また、2014年、2018年ともに23人中7名が選出されるなどドイツ代表の軸はバイエルン・ミュンヘンとなっています。
しかし、高額の年俸、移籍金で国内のチームの中心選手を獲得しているバイエルンはドイツでも嫌われており、国民7割がアンチバイエルンとも言われています。
このようなチームをドイツ国民は応援できるのでしょうか?

バイエルン・ミュンヘンに対して、反発をするサポーターは非常に多いです。クラブチームの試合のときにはバイエルンに一泡吹かせてやろうとどのチームもサポーターもものすごいモチベーションで試合に臨みます。
でも代表の試合となるとバイエルン所属の選手でも応援できてしまうのが、スペイン代表などとドイツ代表が違うところだと思います

ちなみに、ドイツ国内で人気のある選手については迷いながらもマルコ・ロイス(ドルトムント)ではないかと教えてくれました。

毎年バイエルンから声をかけられている中で、自分が育ったドルトムントに残るという姿勢は他のサポーターからも愛されていると思います。更に移民が増えてきているドイツ代表の中で、生粋のドイツ人という点も重要です

サッカーが変わり、他民族となっても受け継がれるゲルマン魂

現在のドイツ代表は他民族で構成されるチームとしても知られています。例えば、中心選手であるメスト・エジル、イルカイ・ギュンドアン(マンチェスター・シティ)はトルコ系、ジェローム・ボアテングはガーナ系、サミ・ケディラはチュニジア系となっています。ヴィッセル神戸に所属する元代表のルーカス・ポドルスキーもポーランド系移民です。
また、ドイツ代表のイメージもかなり変わりました。90年台のドイツと言えば屈強な選手が強靭な精神力で戦うチームですが、現在は小柄な選手も多く、テクニックはむしろ世界のトップレベルと言えます。
その中で、スウェーデン戦で見せたようなゲルマン魂はなぜ受け継がれるのでしょうか?

実は「ゲルマン魂」という言葉はドイツには無いんです。日本にコーチとしてやってきたドイツのデッドマール・クラマーさんが日本のサムライスピリットという言葉を大事にしたことから、のちに日本人が「ゲルマン魂」という表現をするようになりました。
でも、日本人がイメージする「ゲルマン魂」と同じものは確かにドイツ人にはあります。
それは「勝者のメンタリティ」です。
「どんな状況でも諦めない、例え1対1で負けても、チームとしては絶対に負けない。最後に勝つのは俺達なんだ」。これは今までのドイツ代表が逆境を跳ね返したという経験を直接的に、間接的にチームが共有しているからこそ生まれたものです。そのような精神はドイツ代表に脈々と受け継がれています


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グループリーグ第2戦のスウェーデン戦を退場者を出しながらも決勝ゴールを奪わないといけないという逆境を、勝利のメンタリティで跳ね返したドイツ代表。このまま順当に行くと決勝トーナメント1回戦で、ともに優勝候補として挙げられているブラジル代表と戦います。
ブラジルワールドカップでは7-1と勝利を収めた相手にどのような試合となるのでしょうか。
是非、ドイツの「ゲルマン魂」、「勝者のメンタリティ」に注目して観戦してみてください。日本サッカーがこれから手に入れなければいけないものがきっと見つかると思います。

インタビュー、文:萩原拓也(Sportie編集部)

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