ミズノ 芝田陽香選手に聞く「陸上の魅力と仕事の両立」
WATCHミズノ 芝田陽香選手に聞く「陸上の魅力と仕事の両立」
競技だけに集中できるアスリート氷山の一角で、多くのアスリートが仕事をしながら競技に取り組んでいます。今回は、陸上の400メートルハードルで、多くの大会に出場し活躍しているチームミズノアスレティック所属の芝田陽香選手に、仕事と競技の両立と来年に向けての意気込みについて話を聞きました。
チームミズノアスレティックとは、スポーツメーカーのミズノが運営する陸上チームのことです。陸上競技部が無い社会人選手や、所属クラブが無い有望な選手が競技を続けられるように遠征費や陸上競技製品提供、または選手のマネージメントといったサポートを行なっています。芝田選手は、チームのサポートを受けながら自身で練習場所と時間を確保し、独自で練習に励んでいます。
そんな芝田選手に仕事と競技の両立について、また来年に向けての意気込みについても話を聞きました。
メイン写真 photo by ©Agence SHOT #原田健太 #菊池亮佑
仕事があるからこそ陸上を続けられる
ーー現在の仕事の内容、そして陸上の練習について教えてください。
朝9時から15時まで、スポーツジムで働いています。仕事の内容は、基本的に接客で、ジムやプールの監視、たまにスタジオでレッスンを担当したり、マンツーマンで教えたり、ストレッチ、マッサージなど会員さんの要望に合わせてレッスンをしています。15時までジムで働き、そこから母校である西京高校まで行って、高校生の授業が終わり次第、学生と一緒に20時から21時くらいまで練習しています。大学時代も西京高校で練習をさせてもらっていたので、高校時代からずっとお世話になっています。練習メニューは、高校生と同じもをこなし、お互い刺激し合いながら練習しています。純粋に陸上を頑張ってる高校生の姿をみて、私も頑張ろうといつも思いながら練習しています。
ーー仕事でこれまで一番嬉しかったエピソードはなんですか?
2013年から(ジムで)働いているのですが、みんな私が陸上競技をしていることを知ってくれていて、自分が出場する日本選手権などの大会が近づくと「頑張ってな」って声をかけてくれたり、テレビでも応援してくれています。結構応援してもらってるので、本当に嬉しいですね。
ーー芝田選手は旅行が好きと聞きました。
仕事は土曜日と月曜日が休みなので、息抜きに日曜日に有給を取って旅行に行ったりします。旅行が好きというより、美味しいものを食べたり、良い景色をみたり、パワースポットにいくのが好きですね。
ーー食事面で気にしていることはありますか?
栄養面は気にしていますが、特に何か制限している訳ではないですね。
ーーファッションや美容を気にされていますか?
そもそも美容とかファッションに興味がなく、大学時代は、お化粧すらしていませんでした。社会人になって近くに和田先輩(ミズノトラッククラブに所属し、女子短距離界のトップで活躍する和田麻希選手。芝田選手の高校・大学の先輩にあたる)のような美容に気をつけている綺麗な方が周りにいて、美しくてカッコ良くて速いってすごい素敵だなと思い、少しずつ感化されて気にするようになりました。自分も和田先輩みたいになりたいって思いましたね。
ーーシーズン中は、緊張状態が続き大変だと思います。オンとオフ、メンタルの切り替えについて何か意識されていることはありますか?
基本的に練習で自分を追い込みたいと思うタイプなので、練習はきっちりこなし、体調が悪かったり、気が乗らない時は、練習しないようにしています。練習しない時はよっぽどしんどい時くらいです。
ーーでは、仕事と陸上競技の両立について、充実している点、苦労している点を教えてください。
はじめは、陸上競技だけの生活が羨ましかったですが、今は違いますね。ジムの会員さんと仲良くさせてもらって、応援してもらえるなど繋がりが増えたのは今ジムで働けているからです。働きながら競技をしている今の環境は、自分にとって良いことだと思っています。そういうわけで苦労してるとは感じないです。競技に関していうと、働いてる時間も練習や身体のケアに当てれたらいいなと思いますが、競技だけしていればいいって環境は、自分には合わないと思います。仕事があるからこそ規則正しい生活が送れているので、ジムで働いてる方がいいですね。
陸上競技は人生で常に最優先事項
ーー芝田選手が思う陸上競技の魅力とはなんでしょうか?
選手側からすれば、単純にそこに向けて努力した分結果が出る訳ではないですが、結果が出た時は嬉しいですね。その瞬間のためにやっています。結果がわかりやすく数字として出るので、タイムに出ると報われますし、何より自分の人生を費やしてやっている陸上競技での走りを見て、「良かった」とか「感動した」って言ってもらえることが嬉しいです。それは選手冥利につきますね。だからこそ、自己ベストだったり、良い順位を出してで家族や友達から良かったって言ってもらいたいです。まだその順位になれていないので、まだ競技を続けられているのかなと思っています。もし勝ってたらもう満足して陸上をやっていないのかもしれません。だから良い形でみんなを喜ばせて終わりたいですね。
ーー陸上競技をはじめたきっかけは?
小学生の時、先生が「いい脚してる」って言ってくれて、陸上をやってみることになり、幅跳びをはじめたのがきっかけです。大文字駅伝にも出ていましたが、中学・高校も幅跳びが専門でした。
中学生の時は、京都市内で予選落ちするくらい弱かったんです。そんな私を西京高校の先生がたまたま見てくれていて、「これから伸びるかもしれない」と声をかけてくれました。西京高校は京都市の中で偏差値が高く、なおかつ陸上競技が強い学校です。それから西京高校を目指してみようかなと思い、陸上だけではなく受験に向けて勉強も頑張りましたね。「やるんやったら日本一目指すぞ」って思えるようになってからは成績が伸びていきました。
ーー走り幅跳びから400メートルハードルに転向したきっかけはなんですか?
西京高校は京都で総合優勝を狙っている学校だったので、高校2年生か高校3年生の時に、点数稼ぎとして400メートルハードルにエントリーすることになりました。高校2年生のときは幅跳びで全国インターハイに出ることができたのですが、高校3年生の時に近畿大会で落ちてしまったんです。でも出場した400メートルハードルでインターハイにいけてしまったのが転向したきっかけですね。その時幅跳びで全国に行けていたらまだ幅跳びをしていたと思いますし、幅跳びの記録が伸びずもっと早く陸上を辞めていたかもしれませんね。
ーー2016年から2018年、特に2018年は記録に波のある年でしたが、不調の原因はあったのでしょうか?
基本的に怪我なんですけど、そう(怪我に)なる思考だったのかなと思います。こうなりたいという目標を持っていたのですが、高校、大学の練習と社会人の練習が違いが分からず、練習内容を考えず練習を重ねていった結果、怪我につながりました。オーバーワークもありますし、練習をサボることはなかったのですが、競技以外のことに気持ちがいってしまい、集中できていなかったのも原因かなと思います。自分は競技だけでなく、私生活もしっかりしていないと成績が出ないタイプなんです。部屋が汚かったりとかすると結果が出ないのはわかっていましたので、練習だけでなく1日の過ごし方なども大事にしました。その時期(2018年)は乱れがあったので競技に専念できず結果が出ませんでしたね。
photo by ©Agence SHOT #原田健太 #菊池亮佑
2016年は、怪我でシーズンを棒に振って、その後も怪我を引きずって成績もパッとせず気持ちが集中できていなかったので競技を辞めたいなとも思いました。でもそこで辞めても悔いが残るので、2018年のシーズンが終わってからは、私生活も陸上も自分のできることはしっかり実行しました。
ーー競技に専念した結果、昨シーズンはコンスタントに記録が出るようになりました。気持ちの面が大きかったと思いますが、練習でも何か新しく取り組んだものはありましたか?
昨シーズンは社会人になってから一番充実したシーズンでしたね。怪我が一番の敵だったので、怪我をしないことが重要でした。2018年シーズン後には怪我が癒ていたので、冬から集中して怪我に気をつけながら頑張りました。去年の冬の時点で日本選手権出場のための標準記録すら切れていませんでした。そんな冬がはじめてだったのでより一層努力しましたね。標準記録は5月の木南記念で出すことができました。練習はメンタルと年齢を考慮して質を求めましたね。
ーー質の高い練習とは?
ただやみくもに練習するのではなく、練習量を減らし、一本一本集中して考えて走ります。それが2019年ではできました。質の高い練習をやり切りましたが、自己ベスト更新とはならなかったので、またやり方を変える必要があります。今新しい取り組みを2020年シーズンに向けて試しています。それが好記録が出るきっかけになればと思います。
ーー今シーズンの目標を教えてください。
高校を卒業してから、今もお世話になっている高校の先生には1番感謝しています。高校生だけではなく、私やその他の社会人選手まで練習を見てくれて、試合にも応援に来てくれます。今こうして競技を続けられるのも先生のおかげです。身を粉にして私たちの事を支えてくれる先生に、自分が日本選手権で勝った姿をみせて、恩返しすることが目標です。タイムの目標は最低でも自己ベスト(57.68)更新ですが、今まで優勝を目指してやってきてまだ届いてないので、タイムよりも順位にこだわりたいです。新しい取り組みがうまくいくと良いと思います。
photo by ©Agence SHOT #原田健太 #菊池亮佑
ーー最後に芝田選手にとって競技とはどんなスポーツですか?また、どんな価値がありますか?
人生の一部が陸上ではなくて、陸上の人生なんです。何をするにしても競技を第一に考えてしまう。例えばこの人と付き合って競技ができるのか?って考えてみて、競技ができなければその人とは付き合いません。何をするにも陸上が一番なので、陸上が人生ですね。だからこそ上手くいかない時はとても落ち込みますが、逆にこれだけ落ち込めるくらい想いをぶつけられる存在である陸上があるのは幸せですね。それだけ私を振り回す存在ですね(笑)
編集後記
芝田選手に取材するまで、仕事と競技を両立しているアスリートに関して、私はもっと環境の整った中で競技に集中できたらと、どちらかといえば悲観的な考えを持っていました。
しかし、仕事をしているからこそ得られたファンとの繋がりや学びも多く、限られた時間の中で工夫しながら練習に取り組むなど、本人が充実した選手生活を送っている事実を知ることができました。また、競技に集中できる環境で日々練習を行っている選手の凄さや常に好成績が求められるプレッシャーの大きさも同時に感じることができました。
芝田選手は、成績が出ない苦しい時期も経験しましたが、競技への強い想いで乗り切り、今シーズンはよりいっそう輝きを増そうとしています。全日本選手権や日本実業団など陸上選手にとって大切な舞台で表彰台まであと一歩の芝田選手、目標は表彰台ではなく優勝と語ってくれたところに今年にかける意気込みを感じました。
今年の芝田選手の活躍に期待しましょう!
INFORMATION
芝田陽香(Haruka Shibata)
所属:チームミズノアスレティック
生年月日:1991.1.13
出身地:京都府
チームミズノアスレティック:https://www.mizuno.jp/track_field/players/tma/shibataharuka.aspx
Instagram:https://www.instagram.com/shibananaaa/?hl=ja