ブエルタ・ア・アストリアス ―100周年を迎えたハードな山岳ステージレース―

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ブエルタ・ア・アストリアス ―100周年を迎えたハードな山岳ステージレース―

スポーティ

自転車レースが盛んで、有力選手を輩出するスペイン。その原動力の1つとして、スペイン各地で比較的規模の小さなレースが数多く開催されていることがあります。こうしたレースは国際的なネットワークでTV中継されることは少ないため、日本でよく知られているわけではありません。しかし、スペイン国内では有名で、地元の自転車関係者によって毎年地道に運営されているレースばかりです。

そうしたレースの一つが、4月下旬に開催されるブエルタ・ア・アストリアスです。その名の通り、スペイン北部のアストリアス地方を舞台に開催されるこのレースは、厳しい山岳地帯を走るレースとして、スペイン国内の中でも特にハードなレースとして知られおり、今年で100周年を迎えた歴史のあるレースです。

今回の記事では、このアストリアスでのレースの様子をレポートします。

TOP写真:今年のブエルタ・ア・アストリアスを総合優勝したマーク・ソレル(UAEエミレーツ・写真中央)が、往年の名アシストであるホセ・ルイス・ルビエラ(写真右)と共に表彰台に上がった第2ステージの様子。Photo by Yukari TSUSHIMA.

かつて日本のチームに所属したサイクリストの姿も

ビクトリア・スポーツ・プロ・サイクリングはフィリピンのチーム。スペイン人選手のエドガー・ニエト選手(写真左)は、かつて日本のチームに所属していたサイクリスト。Photo by Yukari TSUSHIMA.

ブエルタ・ア・アストリアスの特徴の一つに、出走チームや選手が非常に国際色豊かであるということがあります。今年のこのレースに出走したのは、全部で15チーム。最も多いのはスペインのチームで7チームですが、ほかにはポルトガル・UAE・ドイツ・ポルトガル・カナダ・ルーマニア・フィリピン・グアムという非常に国際色豊かなチームが集まることになりました。

出走チームが国際色豊かであるということは、出走選手も様々な国から集まるということになります。レース内で公式に使われる言語はスペイン語と英語ですが、実際の現場では様々な言語が飛び交います。

今回の出走チームの一つである、フィリピン国籍のビクトリア・スポーツ・プロ・サイクリングには、2人のスペイン人選手が出走していました。その1人のエドガー・ニエト選手は、2023年には日本のチームのマトリックス・パワータグに所属していた選手です。今まで様々な外国のチームに所属したことのあるニエト選手は、スペインのレースを走るのは本当に久しぶりということもあり、多くの友人・知人がレース会場に集まりました。チームメイトのフィリピン人選手のために、報道陣やオーガナイザーとのスペイン語通訳を買って出ていたニエト選手。数々の外国籍チームに所属した経験のあるニエト選手にとって、やはりスペイン国内でのレースは特別なものなのでしょう。大変うれしそうな様子で終始レースをしていたのが印象的でした。

山岳主体のハードなコースが生み出す名選手たち

初日のスタートは標高241mのオビエド市内。晴天のスタート地点。Photo by Yukari TSUSHIMA.

アストリアス地方があるのは、スペイン北部。南には標高2000mを超える山々が並び、北にはビズカイヤ湾が広がる地域です。海辺の近くまで険しい山が迫っている地域なので、平地はほとんどなく、どのようなコースを通っても選手は山を上ったり下ったりすることになります。

また、山は天候が変わりやすいのは、多くの人が知るところでしょう。アストリアスもその例外ではありません。今年のレースでも第2ステージのスタート地点となったべニア・デ・オニスは太陽も顔を出し、青空の下でレースが始まりましたが、ゴール地点となったポーラ・デ・レナは地元の人が驚くほどの大雨となりました。

このように厳しいコースが続くアストリアス地方から、タフで実力のある自転車選手が輩出されるのは、ある意味で当然のことなのかもしれません。今年のレースで大雨の中のゴールとなった第2ステージを制したのは、地元アストリアス出身のイバン・ガルシア・コルティナ選手でした。また、このレースのオーガナイザーの1人として働いていたのは、90年代にツール・ド・フランスで活躍したランス・アームストロングの名アシスト役だった、ホセ・ルイス・ルビエラでした。

「アストリアスは決して嘘をつかない」

大雨の中のゴールとなった第2ステージを制したのは、地元・アストリアス出身のイバン・ガルシア・コルティナ(モビスター・写真右)。Photo by Yukari TSUSHIMA.

アストリアス地方で自転車レースが開催されると、頻繁に耳にする言葉があります。それが、「アストリアスは決して嘘をつかない(Asturias nunca defrauda.)」というもの。

この言葉は、アストリアスのレースは、その自転車選手が持つすべての力を白日の下に晒してしまうほど、ハードなコースや厳しい天候の下で開催されていることを意味します。そして、現場でそうしたレースを見ている多くの人がいるのも、アストリアスという土地なのです。

そんな自転車レースを知る人が100年間守り続けたブエルタ・ア・アストリアスというレースは、国籍を超えた多くの選手が己の実力を試す格好の舞台でもあります。

プロになった自転車選手が、もう一段高いレベルにステップアップすることができるか否かを試す場が、このアストリアス地方であると言えるでしょう。

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