「筋肉はつきにくく落ちやすい」はウソ? マッスルメモリーの機能とは

「筋肉はつきにくく落ちやすい」はウソ? マッスルメモリーの機能とは DO

「筋肉はつきにくく落ちやすい」はウソ? マッスルメモリーの機能とは

スポーティ

「トレーニングを1日休むと、それを取り戻すまでにはその何倍もかかる」という意味の言葉をよく見聞きします。そうしたことから、運動に真面目に取り組んでいる人ほど休むことに罪悪感を感じがちです。

しかし、筋肉には「マッスルメモリー」という機能があり、実際にはそう簡単には筋力は落ちませんし、いったんは落ちても元のレベルに戻すことはさほど困難なことではありません。

もちろん、トレーニングを休む期間の長さ、元々のレベル、さらに年齢などの様々な要素が関係しますので一概には言えませんが、一般的には数週間程度なら筋トレを休んでも、筋力低下をさほど心配する必要はありません。その一方で、心肺能力はわずか数日間の無活動期間でも大幅に失われることがあります。

今回はトレーニングを長い期間休んだ場合の影響とその取り戻し方について、筋力と心肺能力に分けて説明します。 

筋力低下は筋肉が減ったからではない

2013年に発表されたある研究*¹によると、筋トレを継続して行っていたアスリートが3週間ほど休むと筋力が失われ始めます。逆に言えば、3週間までは休んでも筋力は落ちないのです。

それでも長い間休んだ後に筋トレを再開すると、以前は軽々と挙げていた重量が非常に重たく感じることがあります。

しかし、慌てることはありません。筋力が大幅に失われたように思えるのは、筋肉量が少なくなったわけではなく、その筋肉を動かす神経の動きが鈍くなっているからなのです。言い換えるとすれば、筋トレによるストレスを与えられなくなった筋肉が一時的に怠け者になったに過ぎないのです。

参考文献:The development, retention and decay rates of strength and power in elite rugby union, rugby league and American football: a systematic review.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/23529287/

心肺能力は筋力より落ちやすい

筋力と比較すると、心肺能力はより早く、そしてより大きく落ちやすいことが分かっています。2016年のボストンマラソンを走ったランナー21人を調査した研究*²によると、マラソンランナーが3~4週間ほど走るのをやめると、持久力が大幅に落ちることが分かりました。

その大部分は心肺能力の低下によるもので、指標となるVO2Max(最大酸素摂取量)の数値が4週間で10~25%ほど少なくなることも珍しくないとのことです。

VO2Maxの変化が激しいことについてはこんな話もあります。VO2maxはml/kg/minという単位で表されますが、大雑把に分類すれば、普通の人で40~50、ちょっとしたスポーツマンなら50~60、競技者レベルのランナーなら70を越える人も珍しくありません。かつて世界最高の97.5という数値を出したサイクリング選手は21歳で現役を引退しましたが、その後わずか数か月でVO2max が「普通の」競技ランナー並みの70代に落ちたそうです。

参考文献:Cardiovascular response to prescribed detraining among recreational athletes.
https://journals.physiology.org/doi/full/10.1152/japplphysiol.00911.2017

失われた筋力をどう取り戻すか

休んだ後の筋力を取り戻すために要する時間は、以前に鍛えていた人ほど短くなります。その理由は前述しましたマッスルメモリーと呼ばれる筋肉が持つ機能です。そしてこの機能は遺伝子レベルで存在することが最近の研究で明らか*³になりました。

簡単に言えば、筋肉は過去に起きた筋肥大を遺伝子に記憶しています。たとえ長い間休んだ後でも、筋トレを再開するとその記憶がよみがえり、筋肉は以前の筋力レベルに戻るための反応を起こすのだそうです。

つまり、休んだ後に筋トレの記録が大幅に落ちていても、慌てる必要はありません。焦らずに、そして慎重になり過ぎず、現在挙げることのできる重量を段階的に過去のレベルまで増やしていけばよいのです。

参考文献:Human Skeletal Muscle Possesses an Epigenetic Memory of Hypertrophy.
https://www.researchgate.net/publication/322791398_Human_Skeletal_Muscle_Possesses_an_Epigenetic_Memory_of_Hypertrophy

心肺能力を取り戻すには時間が必要

筋力より速く落ちやすい心肺能力は取り戻すときは逆に時間がかかります。ランナーを例にしますと、走ることをやめると体内の血液量とミトコンドリアが減少します。つまり体内の筋肉に酸素を送る機能が低下してしまうのです。これをさらに体感レベルで言えば、走るのを休むと、以前と比べて息が上がりやすくなるということです。

心肺能力も鍛えることによって取り戻すことはもちろん可能ですが、この場合はマッスルメモリーのような遺伝子の助けを借りることはできません。地道にトレーニングをやり直すしかないのです。

とは言っても、無理は禁物です。以前の走行距離の50~70%くらいから始め、徐々に伸ばしていきましょう。走行距離を増やすペースを1週間に10%以上にするのは危険です。

不都合な真実:トシを取るほど休めない

ところで、筋肉量や筋力を維持する能力は加齢に伴って低下します。筋トレを同じ期間だけ休んだとすると、若い世代より中高年の方が記録の落ち込みが大きくなります。ある研究*⁴では、20代のグループと60~70代のグループを比較したところ、6か月の休みの後で筋力が低下した比率が、高年齢のグループは若いグループの2倍近かったとのことです。

いくらマッスルメモリーの機能があるにしても、失われた筋力が大きければ、当然のことながら元のレベルに戻るまでの時間も余計にかかります。そもそも筋トレとは絶えず負荷を強めていくものです。以前のレベルに戻ることが目的ではなく、以前より強くなるためにするものです。

もう若くないと自覚している人は、なるべくならトレーニングを休まないに越したことはないようです。

参考文献:Age and gender responses to strength training and detraining.
https://www.semanticscholar.org/paper/Age-and-gender-responses-to-strength-training-and-Lemmer-Hurlbut/231fcb74210e0afa667f4fad6c3a4aa72009264e

 

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