2020年激震に見舞われたクロスフィット。それでも頑張る日本の“ボックス”

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2020年激震に見舞われたクロスフィット。それでも頑張る日本の“ボックス”

スポーティ

世の中のあらゆるスポーツ団体の例にもれず、クロスフィットは2020年に大きな変化を遂げました。新型コロナウイルスの影響もあり、またそれ以外の要因もあります。

世界最大のフィットネス団体として知られるクロスフィットは、昨年から大きな転換期に差し掛かっていました。最高峰のイベントである世界大会「クロスフィット・ゲームズ」の選考方式を大幅に変更し、急速に国際化を進めようとしていたのです。それまでは北米とヨーロッパ、そしてオーストラリアなどの一部の国に偏っていた出場選手をオリンピックのような1国1代表に近い制度に変えようとする狙いでした。

それと同時に、クロスフィットは組織として競技偏重主義からの脱却を図り、社会健康面を前面に押し出そうともしていました。その方針転換には創始者兼CEOだったグレッグ・グラスマン氏の意向が色濃く反映されていたと思われます。

グラスマン氏はそれまでクロスフィットの成長を支えてきたメディア部門のほぼ全員を解雇するといった荒療治までも行い、公式ホームページも内容を刷新され、一般の高齢者が自宅で日常動作を用いたワークアウトを行う写真や動画がトップを飾るようになりました。

■昨年関連記事>>「クロスフィット・ゲームズ 変革の背景、2019年大会の見所を紹介」

前途多難だった冬(1~3月)

しかし、こうした一連のトップダウン式の組織変革や方針転換は必ずしも会員からの広い支持を受けることはできませんでした。むしろ反発の方が大きかったかもしれません。

それまで右肩上がりで増え続けていた「クロスフィット・オープン」の一般参加者数も2018年の約42万人をピークに、2019年は約36万人、2020年は約24万人と減り続け、クロスフィットの人気が世界的には下降傾向であることがはっきりと数字に見えてきていました。

クロスフィットのビジネス面でのブランド力にも陰りが見え始め、クロスフィット本部とのアフィリエイト契約を更新しないこと選ぶ古手の大手ジムが世界的に増えてきたのもこの頃です。

内憂外患こもごも起きた春(4~6月)

この苦境に追い打ちをかけるように、新型コロナウイルスが直撃しました。クロスフィットとは屋内に大勢が集まり、そして非常に激しい運動を一斉に行うスポーツです。ウイルス感染防止対策の観点からすると、非常に危険度が高いビジネスに分類されてしまいます。

世界中で予定されていた2020年シーズンのイベントが相次いで中止となり、大部分のジムが一時閉鎖に追い込まれました。

さらに今年米国内で大きな社会問題となった「Black Lives Matter」に代表される人種差別反対運動に関連して、グラスマン氏が失言を重ねるという事態が組織崩壊に拍車をかけました。失言の動画が流出するなどし、組織内外から大きな反発を招いたのです。それを理由にリーボックやROGUEなどのメインスポンサーからは契約を打ち切られ、数多くの加盟ジムがクロスフィットからの脱退を表明しました。

集合離散した夏(7~9月)

一連の責任を取って、グラスマン氏がCEOから辞任し、一時は競技ディレクターのデーブ・カステロ氏が新CEOに就任しましたが、すぐにクロスフィットのビジネス権利すべてをエリック・ローザ氏に売却されることになりました。

新たなオーナー兼CEOとなったエリック・ローザ氏はそれまで10年間もコロラド州ボルダー市でクロスフィットのジムを経営してきた人で、元々がオラクルの関連会社で重役だったビジネスマンです。

ローザ氏は改めてクロスフィットは社会正義と多様性を重んじることを宣言し、さらに組織の民主化と国際化を推進すると発表しました。ローザ氏の新たな方針は好感を持って迎えられ、一時はクロスフィットを離れた主要メンバーやジムの一部が組織に戻ってきました。

心機一転した秋(10月~)

ローザ新体制の下で、10月には世界大会「クロスフィット・ゲームズ2020」が開催されました。新型コロナウイルスの影響で、この大会は直前まで開催が危ぶまれていました。しかし、会場をカリフォルニア州の牧場に戻し、無観客開催に加えて、出場選手数も男女5人に限定するなど、従来に比べると大幅に規模を縮小した形ではありましたが、大会は成功裡に終わりました。何より、クロスフィットが新たな体制に生まれ変わったことを内外に強く印象付けたイベントになりました。

来年2月には一般参加のクロスフィット・オープンも始まります。ローザ氏は過去最多だった2018年をも上回る50万人の参加者を目標に掲げ、将来的には世界中のクロスフィット人口を1億人にするビジョンまで明らかにしています。

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日出ずる国のクロスフィット

このように波乱万丈としか表現するしかない2020年ではありましたが、日本国内のクロスフィットは独自の成長を続けています。

私が4年前に書いた書籍『大人の部活―クロスフィットにはまる日々』の前文で、その当時の日本国内にはクロスフィット加盟ジムが10か所ぐらいしかないとしていますが、2020年11月現在、その数は36か所まで増えています(クロスフィット公式ホームページより)。

クロスフィットのジムはボックスと呼ばれます。多分、倉庫のような建物を利用することが多いことからきた呼び名だと思います。

そのボックスというのはクロスフィット本部の直営ではなく、すべてが独立採算の組織です。あくまで志ある人がクロスフィット本部に年間加盟料を支払って、自らボックスのオーナーになり、クロスフィットの看板を掲げているのです。

クロスフィット伊勢

例えば、三重県伊勢市の「クロスフィット伊勢」のオーナーである牧戸和之さんは河川敷や公園に有志で集まるところから始め、ゼロからこのボックスを作り上げました。

現在のクロスフィット伊勢内部

今では、クロスフィットだけではなく、スパルタン・レースやストロングマン・コンテストにも対応した様々なトレーニング器具が並んでいる、世界でも例が少ないほど充実した設備をもつボックスですが、元々の建物は以下の通りでした。

クロスフィット伊勢改装前の建物

クロスフィット松柏

もうひとつ紹介したいのが、京都にある「クロスフィット松柏」。松柏とは耳慣れない言葉ですが(私は寡聞にして知りませんでした)、「松柏之質」という言葉が由来です。常緑樹が一年中緑の葉をつけるように、心身が丈夫で、意志や信念が固いことを意味します。

そんな渋い名称をボックスにつけたオーナーは米国コロラド州出身のクリス・ヴァン・アッタさん。アッタさんもやはり河川敷に人を集めてワークアウトをすることから始めました。

現在のクロスフィット松柏は2階には茶室までもあるという純和風のボックスですが、元々は廃業した銭湯屋の建物を改装したのだそうです。

クロスフィット松柏の入り口。暖簾がかかったクロスフィットのボックスは多分世界でここだけ。

クロスフィット松柏の内部。土地柄もあり、外国からの訪問者も多い。

他にもたくさんある個性豊かなボックス

このように日本でボックスを経営するオーナーたちには個性豊かな人が多く、どのボックスにもその個性がユニークに反映されています。どれ一つとして同じボックスはありません。 

ボックスの大小や歴史の長短はありますが、それぞれが独立した形でクロスフィット本部と繋がっていて、日本のボックスを統括する組織もありません。

これを無秩序と見るか、自由で創造的と見るかは、人によって受ける印象はさまざまでしょう。私は断然、後者です。同じように感じる人は、ぜひ「日出ずる国のクロスフィット」を訪ねてみてはいかがでしょうか。下のボックス検索ページで国名に”Japan”を選択すると、最新のリストが表示されます。

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